ビジネス・経済
話題のドラッカーでさえも、伝えられなかった経営メソッド、哲学がある。
それは少子高齢化、人口減少という過去に例を見ない事象を、世界で一番先に経験する日本人にしかわからないこれからの会社の生き抜く術です。
1996年、週刊ダイヤモンド編集長時代に、実際にドラッカーをロングインタビューしたことのある「おもろい会社研究所」代表の松室哲生氏が、それから15年の歳月を経た今の時代に合ったサバイバルのメソッドを伝えます!
プロローグより
今がどういう時代で、これから会社はどう経営していけばいいのか
失われた20年などと言われています。しかし、低成長の時代がくることは、20年もの昔から分かっていました。それは90年代初頭のバブル経済崩壊やその後の景気の低迷とは少し違う次元の予測でした。
それはひと言で言えば消費の減衰です。20年前、団塊の世代は40代前半でした。しかしその少し後にバブル崩壊を迎えます。ここで企業の舵は大きく別方向に向かいます。あと数年で50代になる頃から企業のリストラがはじまったのです。
防衛意識が中高年全体に広がりました。そもそも私たちは50歳を過ぎる頃から、予防的な生活態度に切り替えていきます。健康に気をつけたり、老後の生活資金を確保したりと考えはじめるわけです。日本の場合、高齢化と少子化が同時におとずれ、しかもそこにバブル崩壊が襲来したわけですから、この傾向が顕著になりました。貯蓄率は高まり、モノが溢れる世の中ですから、内需は力を失ってきました。1部には爆発的に売れているものもありますが、全体を見ると、モノは売れなくなってなきているのです。
しかし、こうしたことは予測されていたことだったのです。
バブル経済が崩壊した後の92年に、当時長銀総研理事長だった竹内宏氏は『週刊ダイヤモンド』で、この経済の低迷は決してバブル崩壊だけの影響ではないと論じ「芥川龍之介不況」と命名しています。なぜ、「芥川龍之介不況」か?そのココロは「僕の将来に対する唯ぼんやりとした不安」という芥川の自殺前の言葉を引用したものでした。そこはかとないような不安がずっと続くのだと、竹内氏は論じ「後数0年もすれば六本木の街は閑散としたものになるでしょう」と述べています。これは要するに、少子高齢化によって労働人口が減ると同時に高齢者が拡大するという、世界でも例を見ない状況に日本経済が陥るということを語っていたわけです。少子高齢化になるとどういう現象が起こるのか。高齢者の世話を少なくなった若者で行なうという構図であり、労働人口が急速に減ることによって国の活力がなくなっていくということであり、その結果消費が減っていくということでもありました。
経済は1にも2にも人口動態の変化に影響されます。
人口動態の変化で見れば、第2次世界大戦後の高度成長も、団塊の世代という大きな消費層があったからこそなし得たものだということがよく分かります。団塊の世代の乳児期は育児用品が、学齢期になると、教育関連の商品が売れるようになりました。それによって経済が活性化し、経済の成長に連れて家電製品や車が売れるようになりました。経済の復興力の目覚ましさは日本国民の勤勉さが勝ち得たものですが、その背景にあったのは団塊の世代という大きな市場の存在だったのです。
出版社の成長は、このことを示す1つのいい例でしょう。戦後、数年すると学年誌が売れはじめました。60年代になると週刊のコミック誌が生まれ、その後青年誌やファッション誌が続々と誕生していきます。出版社は時代のトレンドを読んだというよりは、大きな市場に向かって買ってもらえそうな雑誌や書籍を次々に生み出していったのです。
ほかの分野でも同じような現象が起こりました。団塊の世代という大きなマーケットに向けてあらゆる商品とサービスが供給されました。そして団塊の世代に子どもができると今度はそこに団塊ジュニアという名称の市場が形成されました。こちらは残念ながら結婚が分散し出生率も低下したため、それほど大きな市場を形成するには至りませんでした。
話を元に戻しましょう。失われた20年とは、政府の政策の数々の過ちを除けば、団塊の世代に活力がなくなり、団塊ジュニアがそれに取って代わることができなかったために起こった現象と言っても過言ではありません。国の形が変わってきたのです。
ではそのために私たち小さな会社は何をなすべきなのでしょうか。これが本書のテーマです。
小さな会社はアカデミックな経営論を読んで、自社の経営に取り込もうと思ってもなかなか実現しにくいものです。現実に出てくる課題や問題に追われ、その解決に全力を尽くすことの方が多いわけですから。
そこで本書は、経営者であるあなたが、時に考えること、感じること、必要とすることを列挙し、その課題をどう解決するか考えました。その意味では極めて実践的な内容になっています。
本書は大きく4つの章に分かれています。まず第1章では、日本の国がいまどのように変化しているか、その中で私たちはどう対応していくべきかを論じています。
第2章では、企業を成長させるためのさまざまな戦略について考えます。そして第3章で、会社内での人材活用について、いろいろな角度からポイントを上げています。そして最後に第4章で外部との繋がりについて考えていきます。
それぞれの章の中で重要な項目は最後にポイントとしてまとめています。しかし、いちばん重要なのは読者であるあなたが行動することです。
それこそが日本経済の活力なのですから。