東京モーターショー取材記
大盛況のなかで感じた自動車社会の未来予想図
12月11日まで開催された東京モーターショーの取材に行ってきました。東京ビッグサイトでの開催とあって、その立地からなのか、あるいはそろそろ見ておきたいと思った人が多かったのかはわかりませんが、2011年の東京モーターショーは大盛況だったといっていいでしょう。それにしても、ショーをじっくり見ることがプレスデーと一般公開日ではこんなにギャップがあるとは思いませんでした。とにかく人の多さにはただただ驚くばかりです。
ハチロクやBRZ、あるいは各社各メーカーの評論はモータージャーナリストにお任せして、ここでは今回の東京モーターショーから確実に見えた10年後の自動車と社会の未来予想図についてレポートします。
まず今回の東京モーターショーと過去のショーとの明らかな変化は、出展社の構成だと感じています。ひとつは自動車メーカーに限らず、部品メーカーそれもタイヤメーカーのようなメジャーではなく、機能部品メーカーの出展です。最終製品を持たない彼らはビジネスショーや産業展などでの出展はよくあることですが、最終製品を消費者に見てもらうこの手のショーでは控えめだったといえます。たとえば、矢崎総業の出展ブースの勢いなどは代表格でした。矢崎総業は非上場ながらもハーネスを主体にした電子部品の大商社です。トヨタ(というよりはデンソー)を中心に各メーカーへ多品種を納入しています。また北九州市産業経済局が中心となって集積させた「パーツネット北九州」の出展は、中小企業の技術をアピールする目的があったのでしょう。これらが多数、一般消費者を前にアピールをしていることが、まず挙げられます。
またハウスメーカーの出展もこのショーの変化を感じ取れます。スマートグリッドという視点はもはや自動車を単体で見ていくものではないと訴えているようでした。積水ハウスの出展はそれを物語っていましたね。ただ個人的には、積水ハウスで家を建てたものとして、この提案は遅いのではという感じです。大震災直後、家庭用蓄電池について問い合わせたところ、鉛バッテリーのいわゆる旧式のバックアップ電源しかラインナップはありませんでした。そしてオール電化を前面に打ち出していたのにもかかわらず、このショーでは東京ガスのエネファームを押し出していましたから、「あ~ぁ」ビックリです。
そして最大の変化と感じ取れたのが、通信キャリアの出展です。このキャリアの出展がもたらす意味、すなわちそこから自動車がどう進化し、どのように社会と融合していくのかが見えてきます。
それはテレマティクスというキーワードに隠されていると思います。つまり自動車産業と情報通信産業との融合を今後の自動車は避けて通れないことです。
現代の自動車は電子化が進み、いわゆる従来の機械式の部品が減少しています。たとえば、電動パワステ、電気式のウォーターポンプ、コンピュータ制御装置の台頭です。これらはユーザーにとってはメーカーのブラックボックス化ととらえられていますが、メーカーにとっては軽量化、コントロールのしやすさにつながっています。そしてその先にあるものはさらなる電子化です。
自動車はそれ単体では人を乗せることを除いてコミュニケーションツールとはならない乗り物でした。それではこの先、自動車の魅力を最大限にアピールすることができません。自動車がコミュニケーションツールとしての魅力を備えなければもう「売れない」時代が来るのです。
なぜなら、自動車は環境対応を積極的に取り入れなければならないからです。つまり、エンジンパワー競争の終焉を迎えることは、自動車の「より遠くへ、より速く、より安定的に楽しく」という魅力を失うことと同じです。これからのクルマは「より安く、社会に役立ち、より快適で楽しく」が次世代自動車の持つ魅力にならなければならないのです。
それには大きく分けて、2つの新しい魅力が必要です。1つが次世代自動車の動力は脱エンジンに向かわなければならないことです。今回の東京モーターショーが近未来の自動車として位置付けていたのは、燃料電池車ではなく、EVだという結論を導いていました。
EVなら、燃料換算リッター2円で充電でき、家庭で充電も電力供給もできます。東京―名古屋間を600円で移動でき、いざとなったらバックアップ電源として家庭で利用できる。まさに一家に1台の魅力を持つのです。各社、各メーカーは次世代自動車の中心はEVだとこのショーで表現していたと理解しました。しかしまだEVには課題が山積なことも確かです。ひと言でいえば、電池の性能です。この電池問題を早く解決させることが自動車産業界には急務です。いまのところ、東芝が一歩リードというところでしょうか。
そしてもう1つは、前述したテレマティクスです。これはいわゆる自動車のスマホ化ととらえていいでしょう。つまり、常時接続とクラウド化で自動車がコミュニティツールの役割も果たす魅力です。スマホあるいは家庭のパソコンのように、情報とアップデートを収集してくれる魅力あるいは、インパネを壁紙のように選択できるといったリベラルな思考をクルマが備え持つという方向性です。さらにはスマホでクルマそのものをリモートコントロールできるようになり、スマホがクルマにまつわるあらゆる安全を提供することも具現化されるでしょう。
いずれにせよ、電池メーカーと情報通信事業者が次世代自動車をより魅力ある商品開発に導くことは間違いなさそうです。